デパケン(バルプロ酸ナトリウム)とはどんな薬?

デパケン(協和発酵、主成分バルプロ酸ナトリウム)は、てんかんの発作の予防に使われる薬です。てんかんの発作のときには、脳の神経が異常な電気活動を起こすため、体の筋肉が痙攣を起こします。デパケンは、脳の電気活動を鎮める作用を持っているので、デパケンを常に服用しておくことで、てんかんの発作を予防することができます。

また、デパケンは、躁病という病気を治療するためにも用いられます。躁病では、神経活動が更新しているため、異常に気分が高揚し支離滅裂な言動を発したりします。デパケンは、神経活動を鎮める作用をもっているので、てんかん同様、デパケンを服用することで躁病の状態を治療することができます。

デパケンは、神経に対して抑制作用をもつGABA(ギャバ、γ-アミノ酪酸)という物質の働きを高めることで神経活動を抑えます。

GABAは神経同士が情報を伝達するシナプスという場所で働きます。シナプスはシナプス前神経とシナプス後神経という二つの神経が接する部分にある空間です。シナプス前神経に情報が入力されると、シナプス前神経からGABAが放出されます。GABAはシナプスの中を移動して、シナプス後神経の表面にあるGABA受容体というタンパク質に結合します。するとGABA受容体が活性化されて、シナプス後神経の働きが抑制されます。

シナプスに放出されたGABAは、GABAトランスアミナーゼという酵素によって分解されるのですが、デパケンはこの酵素の働きを止めてしまいます。すると、シナプスにはGABAが長時間のこるために、シナプス後神経の働きは長い間抑制され続けます。そのため、デパケンを服用することで、異常な神経活動によって起こるてんかんや躁病の発現を抑えることができるのです。

デパケンが神経活動を抑制する、という性質から、デパケンを痛み止めとして用いる場合もあります(ただし、デパケンの痛み止めとしての使用には、健康保険は適用されません)。神経が傷ついておこる神経因性疼痛という病気があります。神経因性疼痛の時には、傷ついた神経が異常に興奮することで、つねに強い痛みを感じます。デパケンは、神経活動を抑制する作用があることから、神経因性疼痛を抑えることができるのです。

てんかんとうつ病と痛み、関係なさそうな三つの病気が、同じ薬で治療できるというのは、なんか不思議な感じですね。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


デパケン(バルプロ酸ナトリウム)の構造式