ネクサバール(バイエル薬品、主成分ソラフェニブトシル酸塩)は、腎臓がんの治療に用いられる抗がん剤です。ネクサバールは、腎臓がんのなかでも、手術ができない腎臓がんや、転移したがんなどの、非常に治療しにくいがんに対して用いられます。
ネクサバールは、海外において2005年に発売され、日本では2008年発売されました。海外発売3年後の国内販売ということで、日本の腎臓がんの患者さんには、待ちにまった薬だったと言えるでしょう。
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ネクサバールは、これまでの抗がん剤とは作用メカニズムが異なります。ネクサバールは、がん細胞が増殖するのを止めたり、がんに向かって栄養を送る血管が伸びていくのを押さえることで、がん細胞を弱めて、がんの進行を防ぎます。
ネクサバールの作用メカニズムを知るためには、キナーゼというキーワードが重要です。キナーゼとは、酵素タンパク質であり、これまでに数百種類のキナーゼが知られています。キナーゼとは、細胞の中の重要なタンパク質に、リン酸という物質をくっつける働き(リン酸化といいます)をもつ酵素です。
キナーゼによってリン酸化されたタンパク質は、さまざまな働きができるようになります。つまり、キナーゼというのはタンパク質が働くためのスイッチを入れる役割をもつ酵素なのです。
ネクサバールは、キナーゼの中でも、がん細胞の増殖にかかわるキナーゼ(MAPキナーゼ)と、がん細胞に栄養を与える血管を伸ばす作用に関わるキナーゼ(Raf,VEGFR,PDGFRなど)の働きを止めてしまいます。生体には、これら以外にも数百のキナーゼがあるのですが、ネクサバールはMAP キナーゼやRaf,VEGFR,PDGFR以外のキナーゼの働きを抑えることはありません。この性質を「ネクサバールには選択性がある」と呼ぶのですが、この選択性により、ネクサバールは比較的副作用が少ない抗がん剤となっています。
これまでの抗がん剤は、がん細胞の増殖を防ぐために、細胞の分裂に必要なDNA合成などを止めるメカニズムを用いていました。しかし、このメカニズムでは、正常な細胞が分裂するのも止めてしまうため、様々な副作用が生じます。よく知られている副作用としては、細胞の増殖が盛んな骨髄(血球を作る組織)の動きを止めて極度の貧血をおこしたり、髪の毛の毛根細胞の働きを止めて、脱毛をおこしたりすることが挙げられます。ネクザバールは、がん細胞に関わるキナーゼのみを選択的に阻害するために、これまでの抗がん剤のような副作用は起きにくくなっています。
ネクサバールは、特定のキナーゼを狙い撃ちにする(標的にする)ことから、ネクサバールのような抗がん剤を分子標的剤とよんでいます。ネクサザールに続くさまざまな薬が現在開発中です。どのようなキナーゼが次の標的になるのでしょうか。そして、ネクサバールを越える薬になるのでしょうか、、とても楽しみです。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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