アベロックス(塩酸モキシフロキサシン)とはどんな薬?

アベロックス(塩野義製薬・バイエル薬品、主成分塩酸モキシフロキサシン)は、主に呼吸器系の感染症の治療に用いられる薬です。アベロックスが殺菌作用を示す細菌は、ブドウ球菌、肺炎球菌、大腸菌、レジオネラ菌、クラミジア、マイコプラズマなど様々で、細菌を大きく分類したグラム陽性菌、グラム陰性菌のいずれに対してもアベロックス殺菌作用を示します。アベロックスは、細菌の分裂に必要なタンパク質の働きを抑えて細菌の分裂を止め、殺菌作用を示します。

アベロックスの標的は、トポイソメレースⅣ(グラム陽性菌)、DNAジャイレース(グラム陰性菌)という酵素タンパク質です。これらの酵素タンパク質は、細菌が分裂するときに、DNAのねじれ(二重らせん)をほどいて、DNAのコピーの準備をするという大事な役目を持っています。アベロックスは、このDNAがほぐれるという過程を止めることで、細菌の分裂を止めてしまいます。ちなみに、細菌のトポイソメレースⅣやDNA ジャイレースは、私たちヒトのものと種類が異なるので、アベロックスがヒトの細胞に対して影響を与えることはありません。

アベロックスは、体内に吸収されると、速やかに全身に運ばれます。特に、呼吸器系の臓器によく届くのがアベロックスの特徴です。細菌が居座っている肺や気道にアベロックスが到達すると、細菌に襲い掛かり細胞をどんどん殺します。アベロックスは、体内に長い間残る性質があるため、1日1回飲むだけで、体内の細菌を殺すのに十分な量を体内に送り込むことができます。

アベロックスは、その構造からニューキノロン系抗菌薬とよばれています。アベロックスの構造式の中の、6角形が2つつながっている部分がキノロンと呼ばれる部分です。50年ほど前、キノロンを持つ化合物に抗菌作用があることが発見され、様々な化合物が合成されました。その進化の末に生まれた、アベロックスのような新しい抗菌薬がニューキノロン系抗菌薬です。

感染症の治療薬には、抗生物質のように自然界から見つかった化合物(天然物)、または天然物の構造を変化させて作った化合物が多いのですが、アベロックスのようなニューキノロン系抗菌薬は、自然界に頼らず、ヒトの手により化学合成されて見つけられた化合物です。化学合成で作られる化合物は、さまざまな工夫(構造変換)がしやすいため、優れた薬をより作りやすいとされています。抗生物質を創り出す自然の力はすごいけど、ヒトの力もまんざらではない、というところでしょうか。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


アベロックス(塩酸モキシフロキサシン)の構造式