タナトリル(イミダプリル塩酸塩)とはどんな薬?

タナトリル(田辺三菱製薬、主成分イミダプリル塩酸塩)は、高血圧の患者さんの血圧を下げるために使われる薬です。タナトリルは、血圧をコントロールするだけでなく、いろんな臓器を保護する働きも持っていて、タナトリルには糖尿病によって機能が低下した腎臓の状態を改善する作用もあります。

タナトリルはACE阻害薬(えーすそがいやく)と呼ばれる種類の薬です。最近はARB阻害薬(アンジオテンシンII受容体阻害剤)という種類の降圧薬にその座を脅かされてはいますが、それでも高血圧の治療に広く使われています。

タナトリルは、体内にあるACE(えーす=アンジオテンシン変換酵素)という酵素タンパク質の働きを止める作用があります。ACEは主に腎臓で作られるアンジオテンシンIと呼ばれる物質を分解して、アンジオテンシンIIに変える働きを持っています。このアンジオテンシンIIは、強い血圧上昇作用をもっていて、高血圧の原因の1つとされています。タナトリルはACEの働きを止めて、血圧上昇の原因であるアンジオテンシンIIが作られるのを防ぐことで血圧を降下させます。

タナトリルをはじめとするACE阻害薬は、その効果の強力さから広く世の中で使われているのですが、ACE阻害薬(もちろんタナトリルも)には、特徴的な副作用があります。

それは「咳」です。

この咳、結構な割合で起こり(発生率3%くらい)、欠点が少ないとされるACE阻害薬にとって、唯一の欠点と言っていいほどの副作用です。この副作用は、ACE阻害薬であれば、どの薬でも起こりえます。

ACEは、生体内でアンギオテンシンIのみを分解する訳ではありません。ACEの標的となるもう1つの物質として、ブラジキニンという物質があるのですが、このブラジキニンには、気管を刺激して咳を出すという働きがあります。これは、喉に異物が入ったときに、異物を取り除くという大事な役割を持っています。ACE阻害薬はブラジキニンの分解を防ぐ作用をもつため、ブラジキニンの気管での量が増加することから、何の刺激もないのに咳が出てしまうようになるのです。

この咳、悪者のようにみえますが、見方を変えると役に立つこともあります。

体力が落ちていて、咳ができないという患者さんはたくさんいるのですが、このような患者さんは気管につばや食べ物などの異物が入っても、咳をしてこれを取り除くことができません。ひどい場合は、肺が炎症を起こし、誤嚥性肺炎とよばれる状態になってしまうこともあります。

このような患者さんに、タナトリルなどのACE阻害薬を投与すると、咳が出やすくなり、誤嚥性肺炎を防ぐことができます。このようなACE阻害薬の使用法は、健康保険の適応はうけていないことから、適応外処方と呼ばれています。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


タナトリル(イミダプリル塩酸塩)の構造式