アストミン(ジメモルファンリン酸塩)とはどんな薬?

アストミン(アステラス製薬,主成分ジメモルファンリン酸塩)は,風邪や気管支炎,肺炎のときにおこる咳(せき)を止めるための薬です。アストミンのような薬を咳を静める薬と書いて「鎮咳薬」(ちんがいやく)と呼んでいます。

気道に異物があると,神経がこれを感知して脳へ信号を送ります。すると,脳の中の咳中枢というところから、「咳を出せ」という命令が呼吸を制御する筋肉へ送られて咳が起こります。アストミンは,この咳中枢の働きを抑えることで咳を止める働きを持ちます。

アストミンのように,脳に働いて咳をとめる薬を中枢性鎮咳薬と呼んでいます。アストミンのような脳に働きかける薬を開発する場合,注意しなくてはいけないのは、薬が引き起こす依存性です。依存性というのは,薬を服用し続けるうちに,薬を止められなくなることです。無理に薬を止めようとすると,禁断症状と呼ばれる不快感に襲われることになります。

中枢性鎮咳薬のなかには,古くから使われているリン酸コデインのように依存性を持ち,麻薬として扱われているものがあります(含有量によっては,麻薬として扱われない場合もあります)。そのため,アストミンの開発過程では,依存性がなくすことが第一の目標とされました。その結果,アストミンはつよい咳止めとしての作用を持ちつつ,依存性のない薬となりました。

鎮咳薬の多くは,アストミンのように脳に働きかけるものですが,できれば脳に対する作用を示さないに越したことはありません。気管の筋肉に働きかけ咳を止める薬もあるのですが,このような,むりやり咳を止める薬は,喘息などのひどい咳の治療に使われます。現在,脳にはたらいて咳を止めるのではなく,咳を出すきっかけとなる気管の神経の働きをとめ,咳を抑える薬の開発が行なわれています。敏感になっている気管の神経を和らげる,という薬は,体にとっても無理がない,優しい薬になると考えられています。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


アストミン(ジメモルファンリン酸塩)の構造式