ケテック(テリスロマイシン)とはどんな薬?

ケテック(サノフィ・アベンティス,主成分テリスロマイシン)は ,ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌などの最近によって引き起こされる感染症の治療に用いられる薬です。ケテックが用いられるのは,主に呼吸 器系で生じる感染症である咽頭・喉頭炎、扁桃炎、急性気管支炎、肺炎など の病気です。

ケテックは,これまでの抗生物質(ペニシリン系抗生物質,マクロライド系抗生物質)に対して耐性を持つ細菌に対して殺菌効果をしめします。

ケテックは,ケトライドと呼ばれる新しいタイプの構造を持っています。このケトライドという構造には,細菌が耐性を持ちにくいように工夫が凝らされています。ケテックは,マクロライド系の抗生物質とよく似た楽トン環という構造をもっています。ケテック以前のマクロライド系抗生物質には,糖鎖と呼ばれる構造が2箇所あるのですが,ケテックのようなケトライドは1つしか持ちません。この違いが,細菌がケテックに対する耐性を持ちにくくなる原因だとされています。

ケテックは,細菌の細胞内にあるリボソームという構造に結合し,リボソームの働きを止める作用を持ちます。リボソームは,細菌が生きていくのに必要なたんぱく質を合成するための装置なので,ケテックによりリボゾームの働きがとまると細菌は生きていくことができません。これがケテックの殺菌作用のメカニズムです。

ケテックは,耐性菌に対する作用をアピールして華々しく登場したのですが,発売後に認められた副作用により,表舞台から引っ込まざるを得なくなってしまいました。問題になったケテックの副作用は「意識消失」と呼ばれるもので,服用後数時間たつと前触れなしに意識がなくなってしまう,というものです。車の運転や機械の操作などを行っている場合,ケテックによる意識消失は大事故の原因となりえます。

そのため,ケテックの使用には,「他の抗菌剤が使用できないか、無効の場合にのみ適用を考慮すること」という制限がつけられることになりました。医療の最前線で耐性菌をばったばったなぎ倒す,という薬ではなく,最後の頼みの綱としての薬になったわけです。

この使用制限は,ケテックにとって(結果的にですが)よかった面もあります。ケテックな抗生物質に耐性菌が起こるのは宿命のようなものですが,耐性が置きる頻度はその薬の使用量に依存します。ケテックは,その副作用が原因となって使用量が少なくなり,そのため耐性菌が置きにくい薬となったのです。ケテックの副作用が,耐性菌に対する最終兵器,としてのケテックの位置づけをますます強固にすることになったわけで,薬を作る立場からみるととても皮肉なように思えます。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


ケテック(テリスロマイシン)の構造式