マクジェン(ペガプタニブナトリウム)とはどんな薬?

マクジェン(ファイザー,主成分ペガプタニブナトリウム)は,加齢黄斑変性症という目の病気の治療に用いられる治療薬です。マクジェンが使われる加齢黄斑変性症とは,高齢者の目の網膜に起こる障害であり,進行すると失明につながる非常に怖い病気です。ヒトの網膜には黄斑と呼ばれる部分があり,この黄斑が形や色を判別するために大切な働きを持っています。加齢黄斑変性症では,年齢を経るごとにこの黄斑の細胞に障害がおこり(変性),視力が低下します。マクジェンは,この変性の原因を止める働きを持つ薬です。

加齢黄斑変性症には,変性が起こる原因によっていくつかの種類があるのですが,マクジェンが使われるのは「滲出型」と呼ばれるタイプです。滲出型加齢黄斑変性症では,黄斑の周りに血管が必要以上にたくさん伸びてきます。この血管はもろいために,血管から血液が漏れ出してきて,血管の周りの網膜の細胞を傷つけ,その機能を低下させます。

滲出型加齢黄斑変性症の治療では,この網膜の余分な血管の成長を止めてやればよいのですが,そのために作られた薬がマクジェンなのです。

血管が成長するためには,VEGFと呼ばれるたんぱく質が必要です。VEGFは,血管の細胞表面にあるVEGF受容体というたんぱく質に結合して活性化し,血管の細胞を増殖させるスイッチを入れることで,血管をどんどん伸ばしていきます。マクジェンは,このVEGFの働きを止める作用を持っています。

マクジェンの正体はオリゴヌクレオチドと呼ばれるもので,普通は遺伝子の情報を伝えるために用いられる化合物です。しかし,マクジェンは遺伝情報を伝えることで効果を示すのではありません。オリゴヌクレオチドの中には,たんぱく質に結合して,その働きを止めてしまうものがあり,アプタマーと呼ばれています。マクジェンはVEGFに対するアプタマーであり,VEGFに結合してその働きを止めてしまうのです。

アプタマーは胃の中で分解してしまうので、飲み薬には出来ません。そのため、マクジェンは眼の中に直接注射するという方法で投与されます。これは不便なようですが、マクジェンは眼の中だけに効果を示すので、全身の血管で必要とされるVEGFの働きを抑えることによって起こる副作用を予防することが出来るという利点もあります。

マクジェンをかわきりにして、アプタマーを用いた医薬は多くの会社で開発が進んでいます。アプタマーの利点としては、これまでの薬とは異なり、圧倒的に簡単に合成することが可能であることが挙げられます。通常の薬は複雑な有機化学反応を繰り返すことが必要ですが、アプタマーは核酸を機械で自動的につなぎあわせるだけで出来るのです。まだまだ体内での持続性など改善すべき点はたくさんありますが、これからの医薬をになう期待の新人、であるのは確かだと思います。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


マクジェン(ペガプタニブナトリウム)の構造式