フォルテオ(日本イーライリリー、主成分テリパラチド)は、骨粗鬆症の治療薬です。骨粗鬆症では、骨を作る働き(骨形成)と壊す働き(骨吸収)のバランスが崩れて骨の量がへり、骨折しやすくなったり痛みを感じたりします。主成分であるテリパラチドは、骨形成を高めることで骨の量を増やし、骨粗鬆症での骨折リスクを減らします。
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目次
骨粗鬆症は主に高齢者(特に女性)に多く起こる病気で、骨の量(骨量)が減って構造がもろくなり、骨折しやすくなったり痛みを感じます。高齢者の骨折は回復しにくく、社会生活の質を低下させたり、寝たきり生活の原因となることもあります。そのため、適切な薬剤治療により骨量を維持することが必要です。
骨はリン酸カルシウムでできており、生体のカルシウムの貯蔵庫となっています。カルシウムが足りないときは骨を壊し(骨吸収)、余っているときは骨を作る(骨形成)という仕組みで血液中のカルシウムが一定になるように調整をしています。これを骨代謝回転といいます。
骨粗鬆症では、骨吸収と骨形成のバランスが骨吸収の方向にかたより、骨からカルシウムが溶け出して、骨量が減り骨がもろくなります。そのため骨粗鬆症治療薬は、骨吸収を減らすか骨形成を増やすことで骨量を増やす作用を示します。
フォルテオの主成分であるテリパラチドは、骨形成を高めることで骨量を増やす作用があります。テリパラチドは、骨代謝調節作用を持つ副甲状腺ホルモン(PTH; parathyroid hormone)の一部の構造を取り出したペプチド(小さなタンパク質)です。テリパラチドは、PTHと同じ作用を持ちます。
テリパラチドはタンパク質なので、口から飲んでも消化管内で分解してしまい効果が得られません。そのため、フォルテオの投与方法は皮下注射で、患者さんが自分で投与できるように、フォルテオでは自己注射用のキットが用意されています。
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PTHは、骨芽細胞(骨を作る細胞)表面のPTH受容体というタンパク質に結合し、骨形成増加と骨吸収増加という2つの作用を示します。フォルテオが骨量を増やすのは、骨形成増加作用のほうが強く現れるからです。
骨芽細胞は本来骨を作る細胞ですが、PTHが作用すると破骨細胞(骨を壊す役割を持つ細胞)を活性化するタンパク質を分泌して骨吸収を増加させます。
PTHは骨芽細胞を増殖させます。また、骨芽細胞のアポトーシス(細胞の自殺)を止める作用があります。これらが組み合わさって、骨芽細胞の数が増えて骨形成を増加させます。
この2つの作用は相反するものですが、フォルテオの場合、薬剤の作用時間を極めて短くして(間欠的投与)、骨形成増加作用が高くなるようにしています。
PTHが骨芽細胞に作用するのに必要な時間は非常に短く、フォルテオを投与すると、テリパラチドは投与2時間後には完全に血液からなくなります。骨吸収が増加する間もなく薬剤がなくなってしまうというわけです。
フォルテオは、骨粗鬆症治療薬のなかで、初めて骨形成を促進させる作用メカニズムを持つ薬剤です。古典的な骨粗鬆症治療薬(例:ボナロン(アレンドロン酸ナトリウム水和物)など)はいずれも骨吸収を抑制して骨代謝バランスを骨形成側に偏らせるものでした。
これらの薬剤に比べるとファルテオの骨量増加作用は非常に高く、臨床試験結果が報告されたときには驚きを持って受け止められました。骨を増やすには、やはり新しい骨を積極的にどんどん作る方が良い、ということが患者さんで示されたわけで、ファルテオの開発は大きな成果だと思います。
このように非常に高い効果を持つフォルテオですが、投与期間は2年間に限定されています。これは、ラットに2年間投与したときに骨のがんが発生したからです。このがんはラットでのみ起こり、ヒトでのがんのリスクは低いと考えられていますが、安全が保証された範囲内で使用することになっています。また、このリスクを踏まえ、フォルテオは骨折の危険性の高い骨粗鬆症患者さんへの使用に限定されています。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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