クラリシッド(クラリスロマイシン)とはどんな薬?

クラリシッド(アボット、主成分 クラリスロマイシン)とは、感染症の治療に用いられる薬です。クラリシッドは、広い範囲の細菌に対して、抗菌作用を示します。クラリシッドが効果を示す細菌としてはは、ブドウ球菌や肺炎球菌などのグラム陽性菌、マイコプラズマ、クラミジア、マイコプラズマ、ピロリ菌、などが挙げられます。クラリシッドの主成分であるクラリスロマイシンは、日本の大正製薬によって発見された抗生物質です(大正製薬からは「クラリス」という商標名で販売されています)。

クラリシッドは、様々な細菌の増殖を抑制する作用を持っています。細菌が増殖するには、新しい細胞を作るために様々なタンパク質を合成する必要があります。細菌でのタンパク質の合成は、70Sリボソームという細胞内器官で行われています。リボソームでは、mRNA(メッセンジャーRNA)に書かれているタンパク質のアミノ酸配列情報に従ってアミノ酸が繋ぎ合わされ、タンパク質が合成されます。

クラリシッドは、70Sリボソームの中の50Sサブユニットという部分に結合して、リボソームでのタンパク質合成をとめてしまいます。クラリシッドがタンパク質の合成を止めてしまうので、細胞は増殖できないのです。クラリシッドは、細胞の増殖を止めるだけで、細胞を殺してしまうわけではありません(これを静菌的とよんでいます。細胞を殺す場合は殺菌的)。クラリシッドによって増殖できなくなった細菌は、体内の免疫機構によって排除されるというわけです。クラリシッドは、細菌のリボソームのみに働き、ヒトのリボソームには作用しません。これは、細菌とヒトとで、リボソームの構造が異なっているからです。

クラリシッドは、その構造式の中に大きな輪っかを持っています。このような構造を持つ抗生物質は、他にも沢山知られています。これらの抗生物質は「マクロライド系抗生物質」と呼ばれています。これらのマクロライド系抗生物質には、いろいろと共通した性質があります。私達が薬を飲む時に直接関係する性質として、「薬の苦味」があります。

クラリシッドなどのマクロライド系抗生物質は、薬の中でも特に苦い部類に入ります。そのため、クラリシッドの錠剤の表面は、苦味の原因となるクラリスロマイシンが口の中で溶け出さないように、フィルムコーティングがされています。

また、子どものためにはクラリシッド・ドライシロップが用意されています。子どもは錠剤を飲めません。かといって、そのまま液剤にしても苦くて飲めないからです。ドライシロップ剤とは、粉を甘いシロップに溶かすタイプの薬です。クラリシッド・ドライシロップの場合、シロップに味が付いているだけではありません。クラリシッド・ドライシロップの粉は酸性にならないと(つまり胃の中に入らないと)、クラリスロマイシンが溶け出さない仕組みになっています。とはいっても、やはり口の中にずっと入れておくとある程度の苦味は残ってしまうようです(子どもは大人のように、飲んですぐゴックン、というわけには行きません)。苦味を防ぐ工夫は、あくまで飲み込むまでの応急処置と考えたほうが良いでしょう。シロップ剤を飲んだ後は、すぐお茶や水を飲んだり、口直しとしてチョコレートなどを食べるなどの工夫が必要です。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


クラリシッド(クラリスロマイシン)の構造式