ザーコリ(クリゾチニブ)とはどんな薬?

ザーコリ(ファイザー、主成分 クリゾチニブ)は、肺がんのなかの「ALK融合遺伝子陽性非小細胞がん」と呼ばれるタイプに効果を示す抗がん剤です(ただし、効能には「切除不能な進行・再発」という条件がついています)

ザーコリはすべての肺がんに効果をしめすのではありません。ザーコリは、ALK融合タンパク質というタンパク質の作用を抑制することで抗がん作用を示します。そのため、ザーコリは、ALK融合タンパク質が働いている肺がんの患者さんにのみ使うことができます(これらの患者さんは、すべての肺がん患者さんのうち4%程度とされています)。

ザーコリが適応であるかどうかを調べるためには、肺癌の細胞のなかにALK融合タンパク質を作り出すための遺伝子(ALK融合遺伝子)があるかどうかを、遺伝子検査で調べる必要があります。この検査によって、明らかに効果を示さない患者さん(ALK融合遺伝子を持たない患者さん)にザーコリを投与することを避けることができます。これは、、不要な薬を患者さんに投与することを防ぐことにつながります。

もともと、ザーコリが開発された当初は、ザーコリとALK融合遺伝子の関連性はわかっていませんでした。ザーコリは、がん細胞の増殖に関与するりん酸化酵素c-Metの働きを阻害する薬剤としてスクリーニングされ、臨床試験が進められてきました。

しかし、2007年に「ALK融合遺伝子」が発見されたことで、ザーコリの運命は変わりました。ALK融合遺伝子は、自治医科大学の間野博之氏によって、肺がんの患者さんのがん細胞から発見された遺伝子です。

ALK融合遺伝子は、ALKというリン酸化酵素の遺伝子とEML4というタンパク質の遺伝子が融合してできています。ALKは、細胞外からのシグナルを細胞内に伝える受容体型チロシンキナーゼというタンパク質です。ALKが活性化されると、細胞内のタンパク質をリン酸化して細胞増殖のスイッチが入ります。また、EML4は、細胞内にあるタンパク質で、細胞の形作りや細胞内物質移動に関与する「微小管」と結合するタンパク質です。この2つの遺伝子のそれぞれ一部分が、細胞内での「染色体転座」(染色体同志の遺伝子の入れ替え)によってくっついてしまったのがALK融合遺伝子です。

ALK融合遺伝子が存在する細胞は、ALK融合タンパク(正確にはALK-EML融合タンパク)を作り出します。このALK融合タンパクは、細胞内の増殖に関わるさまざまなタンパク質を活性化させ、がん細胞を作り出します。

ザーコリは、当初はc-Metの働きを抑制することを目的としていました。しかし、ALK融合遺伝子の報告後、ザーコリの主成分であるクリゾチニブのALK融合タンパク質に対する作用を調べてみると、クリゾチニブはALK融合タンパク質の作用を強く抑制し、がん細胞の増殖抑制作用を示すことがわかりました。

そこで、開発元であるファイザー社は、「ALK融合遺伝子を持つ患者さんのみ」に開発対象を絞り込むことにしました。確実にALK融合タンパクが関与する肺がんであれば、ザーコリの有効性は非常に高まると考えられたからです。

ザーコリの臨床試験は非常に順調に進み、アメリカではALK融合遺伝子陽性患者さんに対する臨床試験を約3年間という短期間で終了し、2011年には新薬開発のゴールであるFDA(米国食品医薬品局)への申請に至りました(日本では、2012年の承認です)。

これだけ早い開発過程を経た薬は珍しいのではないかと思います。この原因として、対象となる患者さんがうまく絞り込めたこと、効果が高かったこと、肺がん治療薬への期待が高かった、などの多くの理由が考えられます。

ザーコリのように、使うべき患者さんを選ぶ薬の場合は、患者さんを選ぶための診断薬(キット)が一般的に使われる必要があります。このような目的に使われる医薬品をコンパニオン医薬品とよんでいます。

今後の抗がん剤開発においては、ガンに強く関連する「遺伝子・タンパク質の変異」をターゲットとした分子標的薬と、その変異を捉えるためにコンパニオン医薬品の開発がセットで求められると思われます。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


ザーコリ(クリゾチニブ)の構造式