ジオン注(硫酸アルミニウムカリウム水和物,タンニン酸) とはどんな薬?

ジオン注(田辺三菱製薬、主成分 硫酸アルミニウムカリウム水和物,タンニン酸)は、痔の治療に用いられる注射薬です。ジオンが使われるのは、痔の中でも「脱出を伴う内痔核」と呼ばれるタイプです。

痔は、肛門周囲における出血を症状としますが、その起こる原因によって幾つかのタイプに分けられます。肛門周囲が切れて出血する「切れ痔」、肛門の内側に血管のいぼ(内痔核)ができそこから出血する「いぼ痔」、肛門と肛門周囲の皮膚の間に膿が通るトンネルができてしまう「痔瘻」があります。

ジオンは、いぼ痔のなかでも、「内痔核が肛門の外に飛び出してしまう状態」に用いられます。ジオンが用いられる前には、いぼ痔の治療方法としては、生活習慣改善、薬物療法、薬物の効果が得られない場合には手術による切除が行われていました。内痔核が肛門の外に出てしまうような場合は手術が必要なのですが、やはり患者さんへの負担が大きく、薬による治療方法が求められていました

ジオンは、注射によって薬液を直接痔核に投与することで痔核を固くし、出血を減少させます。この方法を「硬化療法」とよんでいます。ジオンは、中国における硬化療法で使用される「消痔霊」(商品名)を改良して作られました。

ジオンの成分のうち、硫酸アルミニウムカリウム水和物は、痔核の中で炎症を引き起こします。炎症が生じると、炎症組織を修復しようとする生体の働きが発動します。その過程でいぼが硬くなって小さくなり、出血が収まります。ただ、あまりに炎症が激しすぎると体にとって負担がかかります。そのため、タンニン酸(白血球が炎症部位にあつまるのを抑制する作用がある)を加えることで、痔核の炎症が適度に収まるようにしています。

ジオンは一回の投与で、投与後1年間は効果が持続します。手術のように元から痔核を取り除くわけではないので、いぼ痔が再発する場合はあります(再発率は15%程度)。これは、薬物療法の限界、というところなのでしょう。

また、肛門のなかにある痔核にきちんと注射するためには、「四段階注射法」という投与法の習得が必要です(きちんと効果を出すためだけでなく、打ち損じは炎症による副作用を生じるため)。そのため、ジオンを使用するお医者さんには、「四段階注射法」習得のための講習会の受講が求められています。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。