インライタ(ファイザー、主成分アキシチニブ)は、根治切除が不能または転移性の腎細胞癌の治療に用いられる薬です。インライタは、臨床試験において既存の治療法(スニチニブ、インターフェロンαとベバシズマブの併用、テムシロリムス、サイトカインのいずれかによる化学療法)抵抗性の腎細胞癌に対して、無増悪生存期間(進行が見られない状態で患者さんが生存している期間)の延長が確認されました。
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インライタは、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR:Vascular Endothelial Growth Factor Receptor)というタンパク質の機能を抑制する働きを持ちます。インライタがVEGFRの機能を抑制すると、ガン細胞に栄養を供給する血管が形成されにくくなり、ガン細胞は増殖できなくなります。インライタは、いわば、「ガン細胞を兵糧攻めにする薬」というわけです。また、腎細胞癌では癌細胞の増殖自体にVEGFRが関与することもしられており、インライタは直接癌細胞の増殖を止めることでも抗癌作用を示すとされています。
VEGFRは、血管を構成する細胞のうち内皮細胞と呼ばれる細胞の表面に存在するタンパク質です。抗癌剤の新薬においては、癌細胞のリン酸化酵素(キナーゼ)の働きを止めるメカニズムを有するものが主流となっています。そして、インライタがターゲットにしているVEGFRもキナーゼです。
VEGFRに血管内皮増殖因子(VEGF)と呼ばれるタンパク質が結合すると、VEGFRは活性化され、内皮細胞内にシグナルを送ります。このシグナルによって、血管内皮細胞は増殖し、新しい血管が形成されます(血管新生といいます)。
癌細胞は、VEGFR活性化の引き金となるVEGFを産生し分泌する働きを持っています。これは、癌細胞が自分に向けて血管を引き寄せ、酸素や栄養分の補給をさせるためです。癌細胞が急激に増殖すると、細胞の周りの酸素を急激に消費してしまい低酸素状態をまねきます。この低酸素状態が引き金となり、癌細胞にVEGFを作らせるというわけです。インライタは、VGEFによるVEGFRの活性化を抑制することで、癌細胞に向けて血管新生が起こさせない効果を示します。
腎細胞癌患者さんの75~85%では、癌細胞によるVEGF産生が特に多いとされています。また腎細胞癌においては、癌細胞がVEGFによって増殖することが知られています。このように、インライタは、腎細胞癌において、血管新生抑制と癌細胞増殖抑制の二重のメカニズムで抗癌作用を示すわけです。
インライタは、血管の細胞に作用する薬剤であるためか、血管にまつわる副作用が報告されています。特に高血圧や血栓(血管がつまること)などが臨床試験で報告されています。医師や薬剤師の注意に従って服用することが必要です。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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