アサコール(ゼリア薬品工業、主成分 メサラジン)は、潰瘍性大腸炎(ただし重症の場合を除く)の治療に用いられる薬です。潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に潰瘍をともなう重い炎症が起こり、下痢や血便、腹痛などの症状がおこる病気です。潰瘍性大腸炎では激しい症状が起こる活動期と、症状が収まる寛解期が繰り返しおこります。
アサコールはスイスの製薬会社(Tillotts Pharma AG)で開発され、スイスでは1984年に、日本では2009年に発売されました。アサコールは、潰瘍性大腸炎の治療を大きく前進させました。
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日本に於いては、アサコールが出る前の潰瘍性大腸炎の治療薬は、ペンタサという薬が用いられてきました。ペンタサは、アサコールと同じメサラジンを成分とする薬です。しかし、アサコールでは、ペンタサに比べ、よりメサラジンの効果が高くなるように工夫がなされています。
潰瘍性大腸炎では、大腸の粘膜に激しい炎症が起こり、大腸の機能である水分の吸収機能が低下し、ひどい下痢や血便をおこします。メサラジンは、この炎症に対して、様々なメカニズム(過酸化水素消去作用、一重項酸素消去作用、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジルラジカル還元能、 脂質過酸化抑制作用及びロイコトリエンB4産生抑制作用)を介する抑制作用を示します。これらのメカニズムは、炎症によって発生する細胞障害物質の産生を抑制させたり、炎症を悪化させる生体内物質の産生の抑制につながります。
ただ、メサラジンを潰瘍性大腸炎の治療に使うには、解決しなければいけない問題がありました。それは、メサラジンを飲み薬にした場合、大腸に少ししか届かない、ということです。メサラジンは、大腸の粘膜表面に直接働きかけて効果を示すので、できるだけ多くのメサラジンを大腸まで送り届ける必要があります。しかし、大腸は口から遠いところにあるので、メサラジンを飲み薬として投与すると、大腸に届くまでに体内に吸収されてしまうのです。
アサコールは、錠剤に工夫を加えることで、この問題を解決しました。アサコールの錠剤は、胃や小腸では変化を受けず、大腸直前の回腸でようやく成分であるメサラジンを放出します。つまり、胃や腸では、メサラジンを放出させることなしに、メサラジンを大腸まで届けることができるのです。これは、アサコールの錠剤の溶け方がpH(酸性度)によって異なるからです。アサコールの錠剤が溶けるpHは7です。しかし、胃のpHはこれより低く(酸性)、小腸のpHはこれより高い(アルカリ性)値です。したがって、アサコールの錠剤は回腸に届くまで影響を受けない、というわけです。
アサコールの登場以降も、抗TNF抗体製剤であるレミケードが潰瘍性大腸炎の治療に使用できるようになりました。難病と言われた潰瘍性大腸炎にも、薬剤の選択肢が増えつつあるのはうれしいことです。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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