ゴナックス(デガレリクス酢酸塩)とはどんな薬?

ゴナックス(アステラス製薬、主成分 デガレリクス酢酸塩)は、前立腺癌の治療用の薬です(2012年承認、2012年9月末現在発売準備中)。前立腺は、男性にのみ存在する臓器で、膀胱の下に存在しています。前立腺がんは、50歳以上の男性に発症し、とくに欧米人での発生率が高いとされています。

前立腺癌には、男性ホルモンであるテストステロンによって増殖が進むタイプのものがあります。このようなタイプの前立腺がんでは、テストステロンの働きを弱めたり、テストステロン量を低下させることで、がんの進行を抑制することができます。ゴナックスは、テストステロンの体内量を減らすことで、テストステロン反応性の前立腺がんの進行を抑制する効果を示します。

ゴナックスが作用するのは、脳下垂体という内分泌器官のなかの脳下垂体前葉という部分です。ゴナックスは、脳下垂体前葉と呼ばれる部分において性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRn)の働きを止める作用を持っています。

GnRHは、脳の視床下部という部分から放出されます。GnRHは、脳下垂体前葉にあるGnRH受容体に結合し、脳下垂体の細胞を刺激します。すると、脳下垂体前葉は、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)を分泌します。LHやFSHは、精巣のテストステロン産生を促進させることで、体内のテストステロン量を増やします。

ゴナックスを服用すると、脳下垂体前葉でのGnRHの働きが止まり、LH,FSHが分泌されなくなることで、テストステロン産生量が低下、それにより前立腺がん細胞の増殖が抑制される、というわけです。

脳下垂体前葉でのGnRHの働きが止まり、LH,FSH分泌を止める薬剤として、ゴナックスが登場するまではGnRHアゴニスト(LH-RHアゴニストとも呼ばれます)と呼ばれる薬剤が使われてきました。これは、ゴナックスとは反対に、脳下垂体前葉でのGnRHの働きを高める薬です。

GnRHアゴニストは、まず脳下垂体前葉を非常に強く刺激します。すると、この刺激を弱めるために、GnRH受容体の数が減ったり、刺激強度が低下します。これにより、脳下垂体前葉のLHやFSH分泌能力が低下するというわけです。

ゴナックスとGnRHアゴニスト都の間には、幾つかの違いがあります。GnRHアゴニストは、最初に脳下垂体前葉を刺激して、テストステロン量を一時的に増やします。そのため、前立腺がんにおける骨痛、排尿障害、脊髄圧迫などの症状が一時的に悪化します(フレアアップ)。このフレアアップは、GnRHアゴニストによる刺激作用によって起こるので、刺激作用を持たないゴナックスでは生じません。また、ゴナックスは脳下垂体前葉刺激を介することなくLH,FSH分泌を止めるので、ゴナックスではGnRHアゴニストよりも作用がすみやかに現れます。

ゴナックスは、製剤を工夫することにより、4週間毎の皮下注射で効果が得られるようになっています。いろんな点で、ゴナックスは使いやすい薬となっています。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


ゴナックス(デガレリクス酢酸塩)の構造式