ヴォトリエント(パゾパニブ塩酸塩)とはどんな薬?

ヴォトリエント(グラクソ・スミスクライン、主成分 パゾパニブ塩酸塩)は、体の軟部組織(骨組織や筋肉、神経、血管、脂肪など)で発生する悪性腫瘍である軟部悪性腫瘍の治療薬です。

悪性腫瘍の治療では、手術療法、化学療法、放射線療法およびこれらを組み合わせた治療が行われます。特に、悪性度が高い軟部悪性腫瘍では、抗癌剤(抗がん剤)による化学療法と他の治療法との組み合わせが行われます。

ヴォトリエントが登場するまで、軟部悪性腫瘍の治療には、ドキソルビシンとイホスファミドが使用されてきました。しかし、これら2剤が効果を示さない患者や何らかの原因でこれらの薬が使用できない患者には薬剤の選択肢がない状況でした。軟部悪性腫瘍治療薬のバリエーションを増やすことが望まれる中で開発された薬がヴォトリエントです。

ヴォトリエントは、VEGF受容体、PDGF受容体およびc-Kitというタンパク質を標的とする分子標的薬であり、複数のタンパク質の機能を止めることで強い抗がん作用を示します。

急速に増殖する腫瘍細胞は、多くの酸素と栄養が必要とするので、周りの血管に「自分の周りに新しい血管をたくさん作れ」という指令を送ります。この司令を伝えるのは、血管内皮増殖因子(VGEF)や血小板由来増殖因子(PDGF)などのタンパク質です。腫瘍細胞から血管に向けて放出されたVEGFやPDGFは、血管にあるVEGF受容体、PDGF受容体に結合し活性化させます。これらの受容体が活性化すると、細胞内シグナル伝達のスイッチである細胞内リン酸化が起こります。

ヴォトリエントは、VEGF受容体、PDGF受容体による細胞内リン酸化を低下させる作用があるので、VEGFとPDGFによる血管新生のスイッチをオフにします。腫瘍細胞は、新生血管による栄養や酸素の供給を受けられなくなり、増殖できなくなるというわけです。

また、腫瘍細胞の増殖には、c-Kitというタンパク質も関与します。c-Kitは、細胞内リン酸化を介して細胞分裂の進行をコントロールします。ヴォトリエントはc-Kitの働きも止めるため、腫瘍細胞の増殖を直接止めます。

したがって、ヴォトリエントは、「腫瘍細胞への酸素・栄養の供給を止める兵糧攻め」「腫瘍細胞への直接攻撃」の2通りの方法で、軟部悪性腫瘍への治療効果を示します。細胞内リン酸化に関わるVEGF受容体、PDGF受容体、c-Kitのような分子をキナーゼと呼ぶことから、ヴォトリエントのような複数種類のキナーゼの働きを止める薬剤は、マルチキナーゼ阻害剤と呼ばれます。

ヴォトリエント(パゾパニブ塩酸塩) の構造式