メマリー(第一三共、主成分 メマンチン塩酸塩)は、中等度および高度の認知症症状を示すアルツハイマー病の治療に用いられ、認知機能障害(社会生活に必要な言語や集中力、空間認識力の異常)の進行抑制効果を持っています。
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アルツハイマー病は、認知機能、特に記憶力が顕著に低下する病気(認知症)で、症状が進行すると介助なしでは社会生活が困難になります。患者の脳では、進行とともに神経細胞が死に、結果としてさまざまな脳の部位が萎縮します。記憶の形成に重要な役割を果たす海馬の萎縮は、記憶障害の原因となります。
アルツハイマー病で神経細胞が死ぬメカニズムは、基礎研究の進展によりある程度わかってきました。治療薬の研究開発は多くの製薬企業で進められて来ましたが、研究の成功確率は極めて低いのが現状です。現在でも、病気により低下した認知機能を正常まで回復させる効果を持つアルツハイマー病治療薬はありません。
しかし、根本的な治療薬とまでは言えないものの、アルツハイマー病の進行速度を低下させる薬剤が、1990年代以降ようやく登場しました。代表的な薬として、メマリーやアリセプト(エーザイ、主成分ドネペジル塩酸塩)が挙げられます。
メマリーの主成分であるメマンチンは、神経細胞表面にあるタンパク質「NMDA受容体」の機能を抑制し、カルシウムイオンの過剰な細胞内への流入を止めることで神経細胞障害を防ぎます。
アルツハイマー病患者の神経細胞では、NMDA受容体の異常な活性化が起こります。NMDA受容体は、細胞外のカルシウムイオンを細胞内に流入させるトンネルの役割を持つ分子で、さまざまな生理機能のスイッチを入れる役目を持っています。NMDA受容体が過剰に活性化すると、カルシウムイオンが過剰に細胞内に流入し、神経細胞のスイッチが入りっぱなしになるので、細胞機能の障害が起こります。
メマンチンはNMDA受容体に結合して異常な活性化を抑制するので、カルシウム細胞内流入によって起こる細胞障害を抑制します。神経細胞の機能障害が抑制されるので、メマリーはアルツハイマー病の症状進行を抑制すると考えられます。
メマリーは、神経細胞障害を抑制しますが、障害によって死んだ細胞を生き返らせることはできません。また、NMDA受容体の異常な活性化を引き起こす原因を取り除くわけでもありません。そのため、メマリーは、アルツハイマー病の進行を完全に止めたり、低下した認知機能を完全に改善させることはできません。
アルツハイマー病の新薬候補の臨床試験は世界中で行われていますが、根本的治療薬が世の中に出るのはまだまだ先のことだと思われます。薬剤開発には、早期発見、発症メカニズム解析、などの基礎研究の進展が必要です。それまでは、メマリーのような薬に頼らざるを得ないのが実情です。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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