いちから新しい薬を作ってみよう

これまで、「今までの薬を改良する」という作り方を説明しましたが、そのもとになる薬はどうやって作られたのでしょうか?

50年以上前、まだバイオテクノロジーがなかった時代、現在の薬の元になる代表的な薬が数多く作られました。例えば、精神病に対する薬(クロルプロマジンなど)、循環器系に関する薬(ジギタリスなど)、糖尿病の薬(インシュリン、スルフォニアウレア剤(SU剤)など)、抗生物質(ペニシリンなど)などです。

これらの薬はどのようにして見つかったのでしょうか?

自然界から成分を見つける:ジギタリス、ペニシリン、インシュリンなどは、このパターンに当たります。ジギタリスは、昔から病気に効くと伝えられた薬草の成分を分析して、薬効を有する成分を抽出することより見つかりました。ペニシリンは、たまたま青カビによる細菌の発育阻害作用が見つかり、その成分を抽出することにより見つかりました。インシュリンは、動物の血糖値をコントロールする物質を探索することにより見つかりました。このようなアプローチは、現在でも抗生物質や、免疫抑制剤などで行われています。

これまでの薬の副作用から、別の病気に対する薬を見つけ出す:抗生物質のサルファ剤の一種に血糖値を下げる副作用が見いだされたことから、このサルファ剤を改良することによりSU剤という血糖降下薬が発見されました。また、麻酔薬の効果を高める薬剤を動物を用いて探索しているときに、たまたま抗精神病作用をもつ化合物がみつかったことから、クロルプロマジンが発見されました。バイアグラも、もともと循環器系用の薬を探索しているときに、副作用として勃起誘発作用が見いだされたことから発見されました。

このようなアプローチは、薬物の評価をしているときに、偶然発見するという場合が多いです。私たちも、薬を開発するときには、副作用について徹底的に調べます。これは安全性の確認を主目的としていますが、新しい薬の種が見つからないかを確認するという目的も持っています。

20世紀後半、バイオテクノロジーが発達すると、更に別のアプローチが可能になりました。どのような方法論なのか、については次の記事で。