前項で書いたとおり、ランダムスクリーニングで数百万個の化合物を評価すると、0.5%程度(数千個以下)の化合物が、設定した基準(活性の強さ)を満たし、選抜されます。この項では、活性の強さ(=薬の強さ)のわかりやすい考え方として、EC50・IC50・Emaxを説明します。
タンパク質(酵素、受容体)の働きを止める(阻害する)薬では、タンパク質の機能を一定の割合まで阻害する薬の濃度を指標にします。よく使われるのは、タンパク質の機能を薬がないときの50%にまで低下させる(機能を50%阻害する)濃度(IC50値)です。
IC50値が低いほど、少量の薬で機能を低下させることができるので、薬として強い作用を示すと考えられます。ランダムスクリーニングで選抜される化合物のIC50値は、モル濃度という単位で表すと10uM程度(大体 0.1-1 mg/L くらい)の値です。1リットルの水に1mg の薬で効果がでるとなると、すごく強い薬のように思えます。しかし、実際に薬として使われる化合物は、最低でも、1uM以下のIC50値を示す必要があります。
一方、タンパク質や細胞の機能を高める薬の場合は、最大作用がどれくらいかが指標になります。ここでは、ある細胞に物質Aという化合物を作らせる薬を考えてみます。
薬は、濃度が高くなるほど、生体の機能を高める性質があります(濃度依存性といいます)。しかし、生体の機能はどこまでも高くなる訳ではありません。ある濃度以上では、機能増強が頭打ちになり、それ以上の機能変化が起こらなくなります。上の例の場合、ある一定以上の薬の濃度で、細胞で産生される物質Aの量は頭打ちとなり、これ以上増加しなくなります。
このときの物質Aの量が、薬の最大反応となります。これをEmaxと表します。薬によって、最大反応に差が出てくるので、出来るだけEmaxが大きい薬を選ぶことになります。
また、最大反応の他に、IC50と同様なEC50値という指標(Emaxの50%を示す濃度)もありますが、一番最初の段階ではEmaxを優先されることが多いです。
IC50値の計算は、シグモイド関数という関数から計算されます。横軸が薬物濃度、縦軸がタンパク質の機能となるグラフ(濃度作用曲線)がシグモイド関数で表された曲線であると仮定して、このシグモイド関数の式(を構成するパラメーター)から、IC50値を算出します。
ランダムスクリーニングで見つかった化合物は、IC50値やEmaxが実際に医療で利用するには十分ではありません。また、ランダムスクリーニングで得られた数千個の化合物の作用はドングリの背比べであり、薬の作用以外の点で化合物を数個に絞り込むための作業が必要です。この話は、また次回。
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