同じ病気に対する薬として、メカニズムが異なる薬は複数あります。例えば、高血圧に対して使用される血圧降下剤には、カルシウムの細胞内への侵入を防ぐカルシウム拮抗薬や、血圧をコントロールするアンギオテンシンという物質の働きを抑えるアンギオテンシンII受容体拮抗薬などがあります。
そうなると「薬としてカルシウム拮抗薬とアンギオテンシンII受容体拮抗薬のどちらがよいのか?」という疑問が出てきます。両方とも、血圧を下げることは臨床試験で確認されています。どっちがよりよいか?ということは、血圧とは別の項目で勝負しないといけません。
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今回紹介するディオバン(ノバルティス ファーマ、主成分バルサルタン)は、アンギオテンシン受容体拮抗剤です。ディオバンは、カルシウム拮抗薬カルシウム拮抗薬とガチンコ勝負した薬です。もともと。ディオバンのようなアンギオテンシン拮抗薬は、血圧を下げるだけでなく、心臓、腎臓など高血圧で傷害されやすい臓器を保護する働きがあると経験的にいわれていました。この臓器保護効果が、カルシウム拮抗薬との違いでありメリットだろうと、ノバルティスは(多分)考えたと思われます。そこで、ノバルティスはディオバンと、カルシウム拮抗薬の代表であるアムロジピン(商品名ノルバスクなど)とのガチンコ勝負を挑みました。
直接対決は、実際の患者さん(約15000人)をに対して行われました。高血圧の患者さんを二つのグループにわけ、一つのグループにディオバン、他方のグループにアムロジピンを長期間投与し、主に以下の項目に付いて2薬剤の比較を行いました。
1)血圧降下作用、2)高血圧の結果起こると考えられている心臓、血管系の病気(心筋梗塞、心不全)の発生率、3)糖尿病の発生率(高血圧の人は糖尿病になりやすい)。
その結果、1)については、アムロジピンの勝ち。本来、この項目は、アムロジピン=ディオバンとなるようにするべきなのですが(血圧降下作用が同じ時、2薬剤の違いがどう出るかを知りたい実験なので)、この試験では様々な要因のため、アムロジピン>ディオバンとなったようです。もちろんディオバンの投与量をコントロールすればアムロジピン=ディオバンとできるのですが。ここではディオバン不利か?
2)については、引き分け。循環器系の病気の発症率は、両薬剤の間に差は認められませんでした。3)については、ディオバンの勝ち。ディオバンを投与されて患者さんの方が、糖尿病の発症率が低い結果が出ました。
この結果を好意的に解釈すると、「血圧降下作用が弱くても、ディオバンにより循環器系の病気になりにくく、糖尿病にもなりにくい」となります。また、意地悪に解釈すると、「この試験では、通常の臨床使用量を用いているので、実際の臨床では循環器系の病気の発症率に差がない。つまり、アムロジピンはディオバンと同等だ。糖尿病については、ディオバン群の患者がもともと糖尿病になりにくかったからでは無いか?(だって、血圧降下作用に差があるから、このような可能性も考えられる)」ともいえます。
私も、どちらが勝負に勝ったのか、この試験のデータからは判断できないと考えます。この結果は昨年公表され、現在更なる解析が行われています。ノバルティスとしては、売り込むために都合の良いデータを得ようと努力しているのでしょうが、個人的には、ディオバンが勝つかアムロジピンがが勝つかということより、各薬剤でどのような特徴があるのか、今回の臨床試験のデータから、徹底的に洗い出してほしいと思います。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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