ベルケイド(ヤンセンファーマ、主成分ボルテゾミブ)は、血液のがんである多発性骨髄腫の治療薬です。多発性骨髄腫は、免疫細胞の一種である形質細胞が骨髄腫細胞というがん細胞に変化して、貧血、免疫機能低下による感染症、骨髄腫細胞が作る異常タンパク質による腎臓病、骨の破壊による疼痛などを引き起こし、死亡することもある病気です。
ベルケイドの主成分であるボルテゾミブは、細胞内のプロテアソームというタンパク質分解装置の機能を低下させ、さまざまなタンパク質の分解を止めて、がん細胞の増殖を抑制したり、アポトーシス(細胞の自殺)を起こさせます。その結果、ベルケイドは骨髄腫細胞の数を減らし、多発性骨髄腫患者の生存期間を伸ばします。
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多発性骨髄腫は、免疫細胞の一種である形質細胞が、がん細胞になる血液がんです。がん化した形質細胞は、骨の中にある血液細胞産生組織「骨髄」で異常増殖することから骨髄腫細胞と呼ばれます。
形質細胞は、免疫細胞であるB細胞が体外の異物の侵入により活性化されることで作られます。形質細胞の役割は、異物の検出と排除のスイッチを入れるタンパク質「抗体」を作ることです。しかし、がん化して骨髄腫細胞になると、抗体の機能を持たない異常タンパク質(Mタンパク質)を大量に作るようになります。
骨髄腫細胞は異常な速さで増殖するので、血液を作る役割を持つ正常な骨髄細胞が増殖できなくなり、赤血球や免疫細胞が減ります。すると重度の貧血や免疫機能低下による感染症が起こります。また、役に立たないMタンパク質が大量に血液中に放出されると、全身の臓器にたまり機能障害を起こします。例えば、腎臓にたまると腎機能が低下します。また、骨髄腫細胞は骨を溶かす破骨細胞の働きを高めるので、骨が弱くなって激しい痛みを感じます。病気が進行すると、これらの障害が積み重なって全身状態が悪化し、最悪の場合には死に至ります。
多発性骨髄腫を治療するためには、骨髄腫細胞の増殖を止め、数を減らさなくていけません。ベルケイドの登場以前は、形質細胞にアポトーシス(細胞の自殺)を引き起こす副腎皮質ホルモン(ステロイド)と抗がん剤が治療薬として用いられてきました。しかし、生存期間の延長効果は不十分だったので、新しいメカニズムを持つ薬剤の研究開発が行われた結果、ベルケイドが誕生しました。
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ベルケイドの主成分であるボルテゾミブは、細胞のタンパク質分解酵素であるプロテオソームの働きを低下させて、さまざまなタンパク質の分解を止め、細胞増殖を抑制させたり、細胞を自殺させたり(アポトーシス)して、骨髄腫細胞の数を減らします。
細胞の機能は、さまざまなタンパク質によりコントロールされています。その中には、細胞機能を抑制するためのタンパク質が多数存在します。これらのタンパク質が分解されると細胞機能が活性化し、さまざまな生理反応が起こす引き金となります。
タンパク質分解は、細胞内にあるプロテアソームというタンパク質分解酵素で起こります。分解されるタンパク質にはユビキチンというタンパクが付け加えられ(ユビキチン化といいます)、ユビキチン化されたタンパク質はプロテアソームに送られて、タンパク質分解酵素により分解されます。
ボルテゾミブは、プロテアソームの中のタンパク質分解酵素の働きを止めるので、ユビキチン化されたタンパク質が分解されません。すると、細胞機能を抑制するタンパク質が分解されなくなって、さまざまな細胞機能が活性化できなくなります。例えば、細胞増殖が止まったり、細胞の生存維持ができなくなってアポトーシスが起こったりします。その結果、ベルケイドを服用すると、骨髄腫細胞の数が減るのです。
また、ユビキチン化は、構造異常があるタンパク質を取り除くためにも用いられます。構造異常を持つタンパク質は、細胞にストレスを与え(小胞体ストレスといいます)細胞死を起こすので、速やかに分解されなくてはならないのです。ボルテゾミブは、このような異常タンパク質の分解も抑制します。
がん細胞は、正常細胞に比べて増殖速度が非常に大きく、タンパク質がどんどん合成されます。そのため、がん細胞では不良品とも言える異常タンパク質もたくさんできます。ベルケイドを服薬すると、プロテアソームの機能が低下して、異常タンパク質を分解・除去することができません。そのため、骨髄腫細胞は小胞体ストレスにより細胞死します。
このようにベルケイドは骨髄腫細胞の数を減らし、多発性骨髄腫患者の生存期間を伸ばす効果を示します。ただし、プロテアソームは正常細胞にもあるので、ベルケイドは正常細胞にダメージを与え副作用を起こします。中には、重度の肺炎である間質性肺炎や心臓機能の低下である心不全、骨髄機能低下による血球数減少(骨髄抑制)など生命に関わる症状もあります。
しかし、ベルケイドの有効性は非常に高く、多発性骨髄腫の治療法を大きく変えました。そのため、現在ではベルケイドは標準治療薬として用いられています。ただし、有効性が副作用を上回りかつ副作用に対する治療措置が十分できる施設で使用されることが条件となっています。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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