モービック(日本ベーリンガーインゲルハイム、主成分メロキシカム)は、関節リウマチや変形性関節症、腰痛などの痛みを和らげる目的で用いられる消炎鎮痛薬です。主成分であるメトキシカムは、痛みを引き起こす原因となるプロスタグランジンという生体内物質を合成する酵素タンパク質「シクロオキシゲナーゼ」(COX(コックス)と呼ばれます)の働きを低下させる作用を持ち、COX阻害剤と呼ばれています。モービックを服用すると、炎症部位のプロスタグランジンの量が減少して、関節や腰の痛みが弱まります。
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関節リウマチや変形性関節症、腰痛などの運動器の病気では、関節に炎症が起こり、歩いたり荷物を持ち上げたりするときに関節の痛みを感じます。関節痛がひどくなると、日常生活で体を動かすことが苦痛となり、生活の質が低下します。高齢者の場合だと、体を動かさないことで手足の筋肉が弱まり、ますます体を動かせなくなってしまいます(「動ける能力」を表すロコモティブという英単語を使って、ロコモティブ・シンドローム、ロコモと呼ばれています)。
この関節痛は、関節の炎症部位で、痛みに関わる生体内物質プロスタグランジンの量が増えることで生じます。プロスタグランジンは、痛みを伝える知覚神経に作用して、痛みに対する感覚を鋭敏にします。そのため、普段であれば痛みを感じないような日常生活の中の動作でも、強い痛みを感じるようになるのです。
モービックの主成分であるメロキシカムは、プロスタグランジンを合成する酵素タンパク質シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase:COX(コックス)と略されます)の働きを止める作用を持っており、COX阻害剤と呼ばれます(他のCOX阻害剤としては、バファリン(アスピリン)、ロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム)などがあります)。モービックを服用することで、炎症部位でのプロスタグランジンの合成が止まり、プロスタグランジンの量が少なくなるので、痛みに対する感覚が通常の状態に戻って痛みが和らぐのです。
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COX阻害剤は、炎症痛に対して強い鎮痛効果を示すので、関節痛の標準治療薬として用いられています。しかし、COX阻害剤には、程度の差はあるものの消化管障害(胃炎や胃潰瘍)という副作用が起こります。プロスタグランジンは胃粘膜の保護作用があり、強い酸である胃酸から胃の表面を守っています。しかし、COX阻害剤がプロスタグランジンの量を減らすと保護作用が弱まるので、胃炎や胃潰瘍が起こるのです。
COX阻害剤は炎症自体を強く止める作用はない(痛みだけを止める)ので、痛みが続く限り飲み続ける必要があります。そのため、長期間服用しても、胃粘膜保護作用を低下させない薬剤が望まれ、研究開発が行われて来ました。
研究開発の結果、さまざまな薬剤が生まれましたが、その中でもメロキシカムは消化管障害が比較的少ないことが海外での臨床試験の結果からわかりました。その原因を追及したところ、メロキシカムは2種類あるCOXのうち、炎症に関わる方のCOXをより強く抑制することがわかりました。
COXには、COX1、COX2という2種類があり、COX1は胃粘膜など全身の臓器に存在する一方で、COX2は炎症が起こっている部位のみ存在します。COX阻害剤がCOX1とCOX2の両方の作用を止めると、痛みは止まりますが胃粘膜保護作用も弱くなります。アスピリンやロキソプロフェンはこのタイプの薬剤です。一方、メロキシカムは、COX2をより強く抑制する(COX2への選択性が高いといいます)ので、胃粘膜保護作用をあまり低下させずに痛みを止められると考えられました。モービックのようなCOX阻害剤を「COX2選択的阻害薬」と呼んでいます。
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そして現在では、モービックよりも、さらにCOX2選択性が高い薬剤が使用されています。これらの薬は、臨床試験で古くからのCOX阻害薬に比べ消化管障害が少ないことが確認されました。この結果は、臨床現場で歓迎されCOX2阻害薬の売り上げは、急激に増加しました。売上1000億円を超えるブロックバスターも登場しました。
順風満々だったCOX2阻害剤でしたが、実はそこに落とし穴がありました。プロスタグランジンが大腸がんに関与するという仮説から、バイオックス(主成分ロフェコキシブ)というCOX阻害剤について、抗がん効果を調べるための長期臨床試験が行われました。その結果、バイオックスを使用した患者は、使用しなかった患者に比べ、心筋梗塞などの循環器系疾患がおきやすい、という結果が出たのです。生命に関わる病気の発症リスクが高くなるという結果を受け、バイオックスは製造元のメルク社により回収され、使用停止となりました。
バイオックスの環器系に対する副作用がなぜ起こったのかについては、まだ良くわかっていません。正直なところ、COX2阻害作用によるものかどうかもわからないのが現状です。とはいえ、COX2阻害剤でも消化器系リスクをゼロにはできないことなども考慮すると、当初の目論見とは異なり、COX2阻害剤は理想的消炎鎮痛薬とまでは言えないようです。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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