アレグラ(フェキソフェナジン)とは?心臓の副作用を代謝物で乗り越えた抗ヒスタミン薬
最終更新:
アレグラ(サノフィ、主成分フェキソフェナジン塩酸塩)は、花粉症などのアレルギー性鼻炎や、じんましん、皮膚のかゆみの治療に使われる抗ヒスタミン薬です。眠くなりにくいことが特徴で、2012年からは薬局で買える薬(アレグラFX)としても販売されています。
アレグラの主成分フェキソフェナジンは、もとは、トリルダン(主成分テルフェナジン)という抗ヒスタミン薬が、体の中で変化してできる化合物(代謝物)でした。テルフェナジンは、まれに命にかかわる不整脈を起こすことがわかりました。一方、その代謝物であるフェキソフェナジンには、不整脈を起こす作用がありませんでした。フェキソフェナジンは新しい薬として登場し、トリルダンは販売中止となりました。
この記事では、アレグラの効き方を短く紹介したあと、テルフェナジンの不整脈の原因がどのように突き止められ、代謝物がどのように薬になったのか、そしてこの出来事が今の創薬をどう変えたのかを、薬を作る側の目線で紹介します。
アレグラの作用メカニズム
花粉などの異物が体に入ると、免疫細胞の一つである肥満細胞(マスト細胞)から、ヒスタミンという物質が放出されます。ヒスタミンは、血管や神経の細胞の表面にあるヒスタミン H1 受容体に結合し、鼻水やくしゃみ、皮膚の腫れ、かゆみなどを引き起こします。
フェキソフェナジンは、H1 受容体に結合して、ヒスタミンが結合できないようにすることで、アレルギー症状を軽くします。このような薬を、抗ヒスタミン薬と呼びます。
眠くなりにくい理由
抗ヒスタミン薬は、1940年代から使われている古い薬です。初期の抗ヒスタミン薬(第一世代)は、よく効く一方で、眠気が出やすいという欠点がありました。これは、脳の中では、ヒスタミンが H1 受容体を通して眠気を止める役割をもっているからです。抗ヒスタミン薬が脳に入ってこの働きを妨げると、眠気が起こるというわけです。この作用を逆に利用した薬が、睡眠改善薬のドリエル(主成分ジフェンヒドラミン)です。
脳の血管には、血液中の物質を簡単には脳に通さない仕組み(血液脳関門)があります。フェキソフェナジンは、この関門を通りにくい性質を持ちます。これは、分子の中にカルボキシ基(-COOH)という水になじみやすい部分を持つため、血管の壁の細胞を通り抜けにくいことに加え、血管の細胞に入りかけても、その細胞にあるくみ出しポンプ(P-糖タンパク質)で血液側に送り返されてしまうからです。これらの性質から、フェキソフェナジンは脳の H1 受容体にほとんど届かず、眠気が出にくいのです。
アレグラのように眠気が出にくい抗ヒスタミン薬を、第二世代の抗ヒスタミン薬と呼びます(テルフェナジンも第二世代の一つです)。
トリルダンの不整脈と hERG
広く使われた「眠くならない」薬
フェキソフェナジンのもとになったテルフェナジンは、1980年代にアメリカで発売され(商品名セルデン)、日本でもトリルダンという名前で、眠くなりにくい抗ヒスタミン薬として広く使われました。
ところが、1990年代のはじめにかけて、トリルダンを飲んでいた人に、トルサード・ド・ポアントという危険な不整脈が起こったという報告が相次ぎました。心電図の QT 間隔(心臓が1回縮んでから元に戻るまでの時間)が延び、まれに死に至ることもある重い不整脈です。
不整脈の原因はhERG阻害だった
テルフェナジンが心臓のどこに作用しているのかは、1996年に明らかになりました。テルフェナジンの標的は、hERG と呼ばれるカリウムチャネル(細胞の膜にある、カリウムイオンを通す小さな通り道)でした。テルフェナジンはhERG を止める作用(阻害作用)をもっていたのです。
hERG は、心臓の筋肉細胞が縮んだあと、元の状態に戻るために必要なタンパク質です。hERGの働きが止まると、心臓の収縮が元に戻るのが遅れて、QT 間隔が延び、不整脈が起こりやすくなるのです。ちなみに、hERG は「human ether-à-go-go-related gene」の略です。ショウジョウバエで、麻酔(エーテル)をかけると足が震えて踊っているように見える変異があり、その原因の遺伝子(ether-à-go-go)に似たヒトの遺伝子、という意味です。
効果を示していたのは代謝物
不整脈が起こる原因を調べるうちに不思議なことがわかりました。テルフェナジンは、飲むとほぼすべてが、肝臓の薬物代謝酵素(CYP3A4)によって代謝物に変わります。そのため、ふだんは、テルフェナジンそのものは血液中にほとんど残りません。飲んだときの抗ヒスタミン作用の大部分は、代謝物(のちのフェキソフェナジン)によるものだったのです。
不整脈が起きたのは、CYP3A4 の働きが弱まったときでした。カビ(真菌)による感染症の薬(ケトコナゾール)や、抗生物質(エリスロマイシン)を一緒に飲んだとき、あるいは肝臓に病気があり代謝機能が低下しているときには、テルフェナジンが代謝されにくくなります。すると、テルフェナジンが血液中にたまり、それが心臓に作用してQT 間隔が延びたのです(1993年に報告)。
そして、代謝物であるフェキソフェナジンには、hERG を止める作用はありませんでした。これが、新しい薬の開発の出発点になりました。
代謝物を薬にする
実際に効果を示すのは代謝物で、しかも代謝物には問題となる心臓への作用がない。「それなら、代謝物そのものを薬にすればよい」と考えるのは、自然な流れです。
テルフェナジンとフェキソフェナジンの違いは、分子の端のほうにあるメチル基(-CH3)の一つが、カルボキシ基(-COOH)に変わっているだけです。肝臓で起きているこの変化(代謝反応)を、最初から済ませた化合物を作って飲めば、心臓への作用は避けられるということです。
図:AIで作成
なぜ、カルボキシ基に変わるだけで hERG を止めなくなるのでしょうか。一般に、hERG を止めやすい薬には、油になじみやすく、プラスの電荷を帯びやすい窒素原子(塩基性の部分)を持つものが多いことが知られています。テルフェナジンも、そうした形をしています。カルボキシ基は、体の中ではマイナスの電荷を帯びやすい部分(酸性の部分)で、これが加わると、hERG を止める作用が弱まることが多いのです。今では、hERG を避けるための工夫の一つとして、創薬の現場でも使われています。
フェキソフェナジンは、1996年にアメリカで承認され、アレグラという名前で販売されました。翌1997年、アメリカの FDA(食品医薬品局)は、同じ効果を持ち心臓への危険がない薬が他にあることなどを理由に、テルフェナジンの承認の取り消しを提案し、テルフェナジンは1998年までにアメリカの市場から姿を消しました。日本では、アレグラは2000年に発売されています。
このように、代謝物を、新しい薬として開発した例はほかにもあります。抗ヒスタミン薬では、ジルテック(セチリジン、もとの薬はヒドロキシジン)やデザレックス(デスロラタジン、もとの薬はロラタジン)等が挙げられます。また、ゼチーア(エゼチミブ)も、代謝物の構造を手本に作られた薬です。
hERG は創薬の関門になった
テルフェナジンの問題をきっかけに、心臓の病気の薬ではないのに QT 間隔を延ばしてしまう薬が、ほかにもあることがわかってきました。そこで、新しい薬を作るときには、hERG を止める作用がないかを、開発の早い段階で調べるようになりました。2005年には、日米欧の規制当局と業界が合意した国際的な指針(ICH S7B)で、hERG への作用を調べる試験を含む、心臓への作用の調べ方が定められました。こうしてテルフェナジンの問題は、すべての新しい薬が開発の早い段階で通る関門を生むきっかけになりました。
hERG を止めることで起こる不整脈は、命にかかわります。そのため、hERG は、化合物を絞り込むスクリーニングの段階から、ふるい落としの材料になります。目安は、薬が使われる病気などでも変わりますが、薬として効く濃度から、数十倍は離れていてほしいところです。ただ、私の経験では、構造を変えて化合物を作り続けても、hERG を止める作用がなかなか消えずに残ってしまい、プログラムが止まってしまうという事例もあり、難しいところです。
アレグラは、カルボキシ基という小さな部分が一つ変わるだけで、薬の性質が大きく変わり、優れた薬になった例です。脳に入りにくくなることで眠くなりにくく、hERG を止めなくなって心臓への危険がほとんどなくなる。このようなメリットが一つの変化で起こることは驚くべきことです。しかも、その変化を起こしたのは体(肝臓)で、研究者はそれに気づいて薬にしました。体の中で起きていることを手がかりに、より良い薬を考え出すことが、研究者の仕事であり、面白さなのだと思います。
注)アレグラにも、飲み合わせの注意がまったくないわけではありません。添付文書には、水酸化アルミニウム・水酸化マグネシウムを含む胃薬(制酸剤)と同時に飲むと、吸収が減って効き目が弱まることがある、などの注意が書かれています。飲み方や飲み合わせが気になるときは、医師や薬剤師に相談してください。
関連記事:ゼチーア(エゼチミブ)とは?(代謝物を手本にした薬)/デザレックス(デスロラタジン)とはどんな薬?/ジルテック(セチリジン塩酸塩)とはどんな薬?
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。