ミケラン点眼液でまつげはのびるか|ミケラン(カルテオロール)とはどんな薬?

ミケラン点眼液(大塚製薬、主成分カルテオロール)は、緑内障の治療に用いられる目薬です。緑内障の治療薬には、まつげが伸びたり目の周りに色素沈着を起こす副作用を持つ薬がありますが、ミケランにはそのような作用はありません。

この記事では、ミケランがまつげを伸ばさない理由について説明します。

ミケランがまつげを伸ばさない理由

ミケラン点眼液でまつげが伸びないのは、まつげが伸びる薬剤(レスキュラなどのプロスタグランジン系薬剤)と作用メカニズムが異なることが原因です。

緑内障は、眼圧が上昇して視神経が圧迫され、視神経に障害が起こって視力が下がる病気です。緑内障の眼圧上昇は、眼の組織に栄養を補給をする房水という液体が目から出にくくなって眼球内にたまるのが原因です。

プロスタグランジン系薬剤は、プロスタグランジン受容体というタンパク質の機能を高めることで房水を眼から出やすくすることで眼圧を下げ、緑内障を治療します。

一方、プロスタグランジン受容体にはまゆげを太くしたり、メラニン色素を増やして皮膚に色をつける作用があります。緑内障治療薬に見られるまつ毛の伸びや色素沈着などの副作用は、プロスタグランジン受容体への作用が原因です。

これに対し、ミケラン点眼薬の主成分であるカルテオロールは、βアドレナリン受容体というタンパク質の機能を低下させる作用を持ちます。

房水の産生はβアドレナリン受容体によって増加します。したがって、ミケランを点眼すると房水の産生量が減り、房水が眼の中にたまりにくくなって、眼圧が低下するのです。

ミケランとプロスタグランジン系薬剤は、作用するタンパク質が全く異なります。これが、ミケランではまつげが伸びない理由です。

ミケランの循環器疾患に対する作用メカニズム

もともとミケランは、高血圧や狭心症、心臓神経症(不安やストレスで動悸や胸痛を感じる病気)の治療薬として使用されていました。

心臓の収縮力や拍動数(心拍数)は、交感神経がコントロールしています。運動や不安などの精神的ストレスで心臓に負荷が加わると、交感神経からノルアドレナリンという物質が分泌されます。ノルアドレナリンは心臓の細胞表面にあるβアドレナリン受容体(β受容体)に結合して、細胞を活性化させます。すると、心臓の収縮力が増加したり心拍数が増加します。

カルテオロールは、β受容体に結合してノルアドレナリンの作用を邪魔することで、心臓の収縮力を弱め心拍数を減少させます。

ミケランが高血圧の治療に使われるのは、カルテオロールが心臓の収縮力を低下させ、大動脈から送り出される血液の圧力を下げるためです。高血圧では、全身の血管の流れが悪くなり、心臓から血液を送り出す際の圧力が大きくなります。ミケランを服用すると、心臓の収縮力を下げることで血液にかかる力が小さくなり、血圧が下がります。

また、ミケランが狭心症の治療に使われるのは、心臓の動きを弱めて休ませるためです。狭心症は、心臓を取りまく冠状動脈が狭くなり、血液から酸素や栄養が筋肉に十分いきわたらなくなって機能しなくなる状態です。ミケランは、心臓の働きを低下させ、筋肉が必要とする酸素や栄養の量を減らし、心臓を休ませて保護します。

不安や精神的ストレス、緊張によるあがり症などで、心臓に特に異常がないにもかかわらず、動悸や胸の痛みを感じる状態を心臓神経症とよびます。ミケランは、心臓の機能を低下させるので、動悸などの症状を和らげることができます。

この記事を書いた人

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


ミケラン(カルテオロール塩酸塩)の構造式