ジプレキサ(日本イーライリリー、主成分オランザピン)は、統合失調症の治療薬です。統合失調症では、脳内の情報伝達を担う神経伝達物質の働きが乱れ、妄想・幻覚(陽性症状)や引きこもり・意欲低下(陰性症状)などの・低下がおこります。主成分のオランザピンは、ドーパミンやセロトニンを始めとするさまざまな神経伝達物質の機能を調節して、統合失調症の症状を改善・維持します。また、ジプレキサは、双極性障害の躁症状やうつ症状(統合失調症の陽性症状・陰性症状に類似)に対しても有効性を示します。
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目次
統合失調症は、妄想・幻覚・混乱した思考を特徴とする陽性症状、社会的引き込もり・意欲低下を特徴とする陰性症状を主症状とする病気です。これらの症状は、コミュニケーション能力や学業や仕事に必要な作業能力を低下させ社会生活を困難にするため、薬剤によって症状が怒らないように適切なコントロールすることが必要です。
しかし、発症の原因がよくわかっていないため根本的な治療薬は存在しません。治療薬としては、症状を改善するための抗精神病薬が用いられています。
統合失調症のさまざまな症状は、脳内の情報伝達に関わる神経伝達物質の働きが乱れることで生ずると考えられています。なかでも、大きな役割を果たしているのがドーパミンです。陽性症状は、脳の中脳辺縁系という部位のドーパミンの活動が活性化て起こると考えられています。また、陰性症状は、脳の前頭前野という部分のドーパミンの活動が低くなって起こると考えられています。
ジプレキサは、脳内のドーパミンの作用を調整して、統合失調症の症状を改善します。主成分のオランザピンは、ドーパミンに加えセロトニンという神経伝達物質の作用を低下させます。
中脳辺縁系では、ドーパミンは神経細胞上のドーパミン受容体(D2受容体)というタンパク質に結合して神経を活性化させます。オランザピンは、D2受容体に結合してドーパミンの作用を邪魔します。そのため、ジプレキサを服用すると中脳辺縁系でのドーパミン活動が低下して陽性症状が改善します。
一方、前頭前野では、セロトニンが神経細胞のセロトニン受容体(5HT2A受容体)に結合し、神経細胞からのドーパミンの分泌量を低下させます。オランザピンは、5HT2A受容体に結合してセロトニンの作用を邪魔するので、ドーパミンの分泌量が増えます。その結果、ジプレキサを服用すると前頭前野でのドーパミンの活動が高まって、陰性症状が改善します。
また、ジプレキサは双極性障害の治療にも用いられます。双極性障害は、精神行動が異常に活発になる躁状態と異常に低下するうつ症状を繰り返す病気です。これらそれぞれの症状は、統合失調症の陽性症状と陰性症状に類似しており、ジプレキサは治療効果を示します。
オランザピンの作用は、主にドーパミンとセロトニンによるものですが、それ以外のノルアドレナリン、アセチルコリン、ヒスタミンなどの神経伝達物質にも影響を与えます。ジプレキサの効果は、これら複数のメカニズムのバランスで成り立つ、いわば漢方薬的な作用と言えます。
ジプレキサのように、複数の神経伝達物質の働きを調節すrることで効果を示す抗精神病薬を多元受容体作用抗精神病薬(MARTA:Multiacting Receptor Targeted Antipsychotic)とよんでいます。
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ジプレキサには、気をつけなくてはいけない副作用があります。それは、肥満と血糖値の上昇です。
統合失調症でジプレキサを服用した患者さんでは、7%程度の患者さんで体重増加が、3%程度の患者さんで食欲の亢進が起こるとされています(出典:「ジプレキサ」インタビューフォーム)。これは、オランザピンがヒスタミンやセロトニンの働きを抑制するからと考えられています。
脳内のヒスタミンやセトロニンは、食欲を抑制する働きがあります。オランザピンを服用すると、これらの神経伝達物質の働きが低下するので、食欲が亢進して体重が増加するのです。食欲の亢進は、生活習慣病と同じ状態を体内に作り出し、糖尿病や高コレステロール血症を引き起こして、脳血管障害や心血管障害のリスクを高めます。
ジプレキサを服用した患者さんのうち、1%未満では糖尿病が発症するとされています(出典:「ジプレキサ」インタビューフォーム)。そのため糖尿病の患者さん、糖尿病にかかったことがある人は服用できません(禁忌)。これは、食欲亢進に伴う栄養のとりすぎに加え、オランザピンが血糖値を調節する膵臓の働きを低下させる場合があるため、と考えられています。
急激な血糖値の上昇は生命に関わることもあるので、ジプレキサを服用する際には口の渇きや多尿などの糖尿病の自覚症状に気をつける必要があります。
統合失調症の治療薬は、症状コントロールのために長期間飲み続ける必要があります。薬剤を服用しやすいように、ジプレキサには、唾液でとけて水なしで服用できるザイディス錠が用意されています。とはいえ、長期使用した際の安全性については未だ不十分という見方もあり、有効性と長期安全性を兼ねそなえた薬の登場が望まれています。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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