タミフル(中外製薬、主成分リン酸オセルタミビル)は、インフルエンザの値用と予防に用いられる抗インフルエンザウイルス薬です。主成分のオセルタミビルは、インフルエンザウイルスが感染細胞の外に出るために必要な酵素タンパク質ノイラミニダーゼの働きを止めることで、ウイルスが感染細胞の外に出れなくすることで、感染細胞の数が増えないようにし、症状を進行させなくします。
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タミフルの標的分子であるノイラミニダーゼは、インフルエンザウイルスの表面にある酵素タンパク質で、ウイルスが感染細胞から脱出するために用いる道具です。ウイルスが感染細胞から出るときには、ウイルス表面のヘマグルチニンというタンパク質が感染細胞表面のシアル酸という分子と結合し、細胞脱出のための足場とします。そして、ノイラミニダーゼが、ヘマグルチニンとシアル酸の結合を切ることで細胞から離れる事ができるのです。
オセルタミビルはノイラミニダーゼの働きを止めて、ウイルスが細胞の外に脱出できなくし、他の細胞へのウイルス感染を防ぎます。そのため、感染細胞の数が増えず、インフルエンザの症状の進行が弱まります。タミフルは細胞の中でのウイルスの増殖はとめないので、ウイルスの量を急激に減らすわけではありません。感染細胞の数を増やさないので、自然治癒までの日数は短縮されます。
もともとインフルエンザは自然治癒する病気なので、タミフル登場以前には「そもそも治療薬開発の必要性があるのか」という議論がなされてきました。しかし、子供や高齢者では、重症化すると死亡することもあることから、症状の悪化を防ぐための薬剤開発は望まれていました。その流れから、生まれてきた薬剤がタミフルです。
本来は、耐性ウイルス(薬剤が効かなくなるウイルス)の発生を避けるためにも、タミフルは子供や高齢者の中で重症化するリスクが高い人にのみ投与されるべき薬剤でした。しかし、「待ちに待ったインフルエンザ治療薬」ということで、タミフルは治療・予防にかかわらず爆発的に処方されるようになりました。また、鳥インフルエンザウイルスに対して有効であることもわかり、パンデミック(爆発的大流行)に備えて、大量のタミフルが備蓄されるようになりました。
これまでのタミフルの使用経験から、耐性ウイルスの発生や異常行動の発現(現在では、タミフルが原因というよりはインフルエンザの症状とされています)などの問題点が指摘されています。しかし、現在飲み薬であるインフルエンザ治療薬はタミフルしかないので、標準的治療薬としての位置は揺らいでいません。これからタミフルが使いにくくなるような状況を作らないためにも、節度ある使用が望まれます。基本的にインフルエンザは自然治癒するので、発症したら自宅で療養し他者に感染させないというのが大原則です。その上で、薬剤を飲んで回復を早めるべきです。薬を飲んだからすぐ仕事、というのだけは避けなくてはいけません。
なお、飲み薬以外のノイラミニダーゼ阻害剤としては、リレンザやイナビルがあります。ただし、吸入薬ということから子供や高齢者には使いづらいのが弱点とされています。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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