ロペミン(ヤンセンファーマ、主成分塩酸ロペラミド)は、下痢止めとして用いられる薬です。下痢のときには蠕動運動(消化管内の食物を移動させるための運動)が激しくなっています。ロペミンの主成分であるロペラミドは、腸管に直接働きかけ、蠕動運動の原因であるアセチルコリンという生体内物質の効果を弱めることで、下痢の症状を鎮めます。
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ロペミンの主成分であるロペラミドは、腸にあるオピオイド受容体(μ受容体)というタンパク質に結合して活性化し、アセチルコリンという神経伝達物質の働きを低下させます。腸の収縮は、神経から放出されたアセチルコリンが筋肉に作用しで起こります。ロペラミドは神経からのアセチルコリンの放出量を少なくして、腸の筋肉の収縮力や収縮回数を減らして蠕動運動を弱めて、下痢の症状を改善するのです。
もともと下痢は体内の異物(細菌など)を排出するための生理作用です。そのため、感染による下痢に対してロペミンを使うと、かえって症状が長引きます。そのため、ロペミンに限らず感染性下痢には下痢止めを使ってはいけないとされています。
実は、ロペラミドの標的タンパク質であるμ受容体は、強い鎮痛作用を持つオピオイド(代表的化合物はモルヒネ)の標的タンパク質でもあります。オピオイドの代表的な副作用として、腸の蠕動運動が弱く事によって起こる強い便秘があります。ロペミンの下痢止めの作用と同じ現象が、オピオイドを投与したときにも起こっているのです。
オピオイドに共有する薬理作用は、神経細胞からの神経伝達物質放出の抑制作用です。作用する神経がどの臓器にあるかによって、薬剤の効果はガラリと変わってきます。ロペミンの場合、小腸などの消化管にあるμ受容体に作用して、アセチルコリンの放出を止めます。一方、鎮痛作用を持つオピオイドは、脳の神経細胞のμ受容体に作用して痛み信号を伝達する神経伝達物質の放出量を減らします。
ロペミンは鎮痛作用を持ちません。というのは、ロペラミドは消化管から血液に吸収されにくく、脳の神経細胞まで化合物が届かないからです。鎮痛作用は、神経細胞のμ受容体によって生じるので、薬物が脳までに届かなければ何の作用も示しません(といっても量の問題なので、大量の薬剤を服用した場合には中枢作用が出るとの報告もあるようです)。
このように、ロペミンは、消化管と神経との間の薬剤分布の差をうまく利用している薬です(臓器選択性をもたせるといいます)。薬を作る上で標的タンパク質の存在場所が非常に大きな役割を果たす、という好例だと思います。
[この記事を書いた人]
薬作り職人
国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。
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