メチコバール(メコバラミン)とはどんな薬?

メチコバール(エーザイ、主成分メコバラミン)は、末梢神経が傷つくことによっておこるさまざまな症状を改善するために用いられる薬です。糖尿病や神経痛、神経へのウイルス感染、抗がん剤治療などでは、炎症などによって末梢神経が傷つき、しびれや痛み、顔面神経麻痺などの症状が起こります。主成分のメコバラミン(メチルコバラミン)、傷ついた神経細胞の修復能力を高めて、これら末梢神経障害の症状を改善します。また、めまいや耳鳴り、味覚障害など、感覚神経の障害が原因と考えられる症状の治療にも用いられます。

全身と中枢神経(脊髄・脳)をつなぐ神経を末梢神経と呼び、知覚神経と運動神経に分けられます。知覚神経は皮膚や感覚器(目、耳、舌など)からの刺激を中枢神経に送り、運動神経は脳からの命令を筋肉に送って動かします。末梢神経が傷つくと(末梢神経障害)、異常な感覚刺激が起こったり、脳からの命令が筋肉にうまく伝わらず動かしにくくなります。メチコバールは、これらの症状を改善するための薬です。

メチコバールは幅広い疾患に使用されます。糖尿病や坐骨神経痛、抗がん剤治療では、高血糖や神経の圧迫、抗がん剤によって知覚神経が傷つき、しびれや痛みが起こります。また、神経に感染したウイルスが炎症を起こすと、知覚神経では痛み(帯状疱疹)が、運動神経では顔の筋肉のマヒ(顔面神経麻痺)が起こります。めまいや耳鳴り・味覚障害には、末梢神経障害が原因である場合もあります。

メチコバールの主成分であるメコバラミン(メチルコバラミンともいいます)は、神経細胞の修復能力を高めます。細胞にはもともと自分自身を修復する働きが備わっていますが、神経障害ではこの能力が低下しています。メチコバールを服用することで、神経修復に必要な材料の合成は活発になり、自然治癒力が高まりることで神経のキズの治りが早くなります。


メコバラミンは食物から得られたビタミンB12(コバラミン)が生体内で変化してできる物質で、活性型ビタミンB12とも呼ばれます。

メコバラミンは、メチオニンというアミノ酸を合成する酵素タンパク質「メチオニン合成酵素」が機能するのに欠かすことができない物質です(補酵素といいます)。メチオニンは、ホモシステインという物質にメチル基という化学構造を付け加えた化合物で、メチル基を他の生体内物質にわたして(メチル基転移)細胞機能をコントロールします。

例えば、メコバラミンは神経細胞を取り巻く膜の材料である脂質の合成を高めます。神経障害を起こした末梢神経を錆びつき傷んだ電気コードに例えると、これは電気コードの被覆を治すことに対応します。また、メコバラミンは細胞機能に必要なタンパク質の合成能力を高めます。これは、電線のサビをとって新しくすることに対応します。

つまり、メチコバールを服用すると、メコバラミンの補給によってメチオニンの量が増えて傷ついた神経細胞の修復能力が高まり、末梢神経障害による感覚異常や神経の麻痺が改善するのです。

メチコバールの作用が現れるには何週間もかかります。メコバラミンが神経の修復能力を高めるとはいえ、神経の修復スピード自体は非常に緩やかなためです。近年、神経障害による痛みやしびれに効果を示す鎮痛薬(例:リリカ(プレガバリン))が登場し、末梢神経障害治療の治療薬は増えつつあります。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


メチコバール(メコバラミン)の構造式