バップフォー(塩酸プロピベリン)とはどんな薬?

バップフォー(大鵬薬品工業,主成分プロピベリン塩酸塩)は、さまざまな原因でおこる頻尿や尿失禁の治療薬です。頻尿や尿失禁では、膀胱が収縮しやすくなり、尿の回数が増えたり(頻尿)、尿もれ(尿失禁)が起こります。主成分であるプロピベリンは、膀胱の筋肉の収縮を抑制する作用があるので、バップフォーを服用すると尿が膀胱にたまりやすくなり、頻尿や尿失禁が改善します。

目次

頻尿・尿失禁とはどんな症状?

頻尿は,さまざまな原因により尿の回数が増える状態です。特に、高齢者でよく認められる夜間頻尿(夜にトイレの回数が増える状態)は、睡眠不足の原因になったり転倒によるけがの原因となるので、薬による治療が必要な場合があります。

また、尿失禁は、尿が我慢しきれずトイレに行く前に尿が漏れてしまう状態で、生活の質(QOL:Quality of Life)が大きく低下します。尿パッドなどで対応することは可能ですが、根本的な治療ではなく生活の不便さは改善しません。

頻尿や尿失禁は膀胱の活動が高まって起こるので、これらの症状が現れる状態を「過活動膀胱」と呼びます。過活動膀胱では,膀胱の筋肉(膀胱平滑筋)が収縮しやすくなり,膀胱に尿がた少したまっただけで尿意を感じ,トイレにいきたくなります。

排尿は、脳が神経を通じて膀胱を収縮させることで起こります。神経の異常が原因で起こる頻尿を神経因性過活動膀胱、原因がよくわからない場合には非神経因性過活動膀胱と呼ばれます。

いずれにしろ、最終的には膀胱が収縮することで尿意が高まったり排尿が起こるので、過活動膀胱の治療には膀胱平滑筋の活動を弱めるアプローチが取られます。


バップフォーの作用メカニズム

バップフォーの主成分であるプロピベリンは、膀胱平滑筋を収縮させにくくする作用を持っています。

膀胱平滑筋は、アセチルコリンという生体内物質により収縮します。脳が膀胱に尿がたまったことを検知すると、脳は膀胱収縮をコントロールする副交感神経を刺激して,アセチルコリンを膀胱に向けて分泌します。

アセチルコリンは、膀胱平滑筋の表面にあるムスカリン受容体(M3受容体)というタンパク質と結合し活性化させます。すると、平滑筋細胞表面のカルシウムチャネル(細胞の外と中をつなぐトンネルタンパク質)が開き、細胞外からカルシウムイオンが細胞内に流れ込みます。これが引き金となって、膀胱平滑筋が収縮するのです

バップフォーの主成分であるプロピベリンは、平滑筋収縮のメカニズムの中の2箇所に作用します。

  1. ムスカリン受容体の機能低下
  2. プロピベリンはムスカリン受容体に結合するので、バップフォーを服用するとアセチルコリンがムスカリン受容体に結合できなくなります。そのため、バップフォーを服用すると脳が膀胱収縮の命令を送っても、膀胱に伝わりにくくなるのです。このような作用メカニズムを持つ薬剤を抗コリン薬と呼びます(例:ポラキス(オキシブチニン塩酸塩)ベシケア(コハク酸ソリフェナシン)

  3. カルシウムチャネルの機能低下
  4. プロピベリンはカルシウムチャネルにも結合します。すると、カルシウムイオンがチャネルを通れなくなり、平滑筋収縮の引き金となるカルシウムイオンの細胞内流入が起こりません。そのため、バップフォーを服用すると、アセチルコリンがムスカリン受容体に結合したとしても、平滑筋が収縮できなくなるのです。

このような2種類のメカニズムが合わさることによって、プロピベリンは膀胱平滑筋の収縮を抑制します。そして、膀胱の筋肉が緩むことで尿を膀胱にためやすくなり、尿の回数がへったり尿失禁を防ぐことができるのです。

[この記事を書いた人]

薬作り職人

国内企業の医薬事業の企画部門に所属。入社後、生物系研究員として、化合物探索、薬理評価、安全性評価に携わりました。企画部門転属後は、研究員時代の経験と専門知識を活かし、各種創薬プログラムの企画運営に携わっています。薬剤師免許保有。


バップフォー(塩酸プロピベリン)の構造式